2025.01.07 コラム

化学薬品の影響とワインの個性の喪失

1960年代からワイン畑で使われ始めた化学薬品は、1990年代にその使用がピークに達しました。パリのワインショップのオーナーなど、長年ワインを味わってきた人々は、「1990年代に造られたワインは個性が感じられない」と口を揃えます。この現象は、化学薬品の蔓延とタイミングが一致しています。

著名な土壌学者クロード・ブルギニヨンは、「ブルゴーニュのコート・ドールの土壌よりも、サハラ砂漠の土壌の方が微生物が多い」という衝撃的な見解を示しました。これは、除草剤の過剰使用が原因で、土壌の微生物が激減し、有機的な営みが失われた結果です。これにより、土壌は固まり、根が深く伸びずに横方向に広がり、栄養を十分に吸収できなくなりました。そのため、化学肥料の使用が不可欠となり、さらに農薬や殺虫剤が必要になったのです。

こうして育てられた葡萄は虚弱で、酸化や腐敗しやすくなります。そのため収穫後に二酸化硫黄(SO2)を使用し、さらに発酵力が弱いため培養酵母に頼ることになります。その結果、土地の個性が失われた、平凡な味わいのワインが生まれるのです。


ナチュラルワインの原点

かつて、ワインは現在で言う「ナチュラルワイン」が当たり前でした。健康で完熟した葡萄があり、セラー環境が適していれば、人間がほとんど介入せずともおいしいワインができたのです。ブルゴーニュの名門ドメーヌであるルロワやルフレーヴがナチュラルワインであり続けたのも、大量生産を求める必要がなく、強力な資産を持つ造り手だからこそ可能だったのです。

一方で、農薬や化学肥料を一度も使わなかった生産者も存在します。その理由は、自然農法への思想的なこだわりや、経済的に農薬を購入できなかったという事情が挙げられます。


SO2の問題と使用基準

SO2は酸化防止や雑菌の繁殖抑制のために使用されますが、人体に有害です。WHOの基準によれば、体重60kgの人の場合、一日あたりの許容摂取量は42mgですが、EUで認可されるビオワインのSO2量は、辛口赤ワインで100mg、辛口白やロゼでは150mgにも達します。これにより、従来型ワインを1本飲むだけで危険とされるレベルに達することがあります。

多くのナチュラルワイン生産者は、SO2の使用に否定的です。「SO2を使うとセラーで呼吸困難になる」と語る生産者も多く、実際にSO2の瓶を開けると強烈な刺激で呼吸が困難になるほどです。

ナチュラルワインの生産者団体「アソシアシオン・デ・ヴァン・ナチュレル(AVN)」では、SO2の基準を白ワインで40mg/L、赤ワインで30mg/L、甘口ワインで80mg/Lと定めています。



SO2の使用タイミングと議論

SO2の添加タイミングも重要です。生産者の多くは「輸送中の劣化防止のために瓶詰め前に添加するのは理解できるが、収穫直後や発酵前に葡萄に振りかけるのは、畑の手入れが不十分であることの表れだ」と指摘します。ラングドックのディディエ・バラルは「発酵前のSO2使用は、発酵中に生まれるアロマを壊してしまう」と述べています。

一方で、ブルギニヨンは「発酵前のSO2は消失して数値には残らない。一方で瓶詰め前の添加は避けるべきだ」との意見を示しています。意見が分かれる中、SO2の量と使用タイミングについては、生産者が科学的に判断するべきでしょう。


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