ナチュラルワインの定義
ナチュラルワイン(フランス語でヴァン・ナチュール)には、厳密な定義が存在しません。それどころか、そもそも定義が難しいものかもしれません。たとえば、「有機栽培の葡萄を用い、化学的・人為的介入を極力排して造られたワイン」と説明したとしても、その葡萄が本当に有機栽培されたものかどうかを目の前で判別するのは困難です。
ただし、区別できる点はあります。それは、発酵が「葡萄のペース」で進められたか、あるいは「人間の都合」で進められたかどうかです。前者のワインには、野生酵母による発酵で生まれる、微生物の豊かな働きが反映されます。その結果、香りは繊細でやさしく、テクスチャーは滑らか、余韻は体に染み入るような柔らかさを持っています。一方で後者のワインは安定感があるものの、味わいが閉ざされ、硬さを感じさせます。つまり、重要なのは「定義」ではなく「味わい」なのです。
野生酵母で発酵を進めるには、葡萄が完全に健康であり、収穫から発酵までの過程がケミカルフリーである必要があります。そのため、自然農法に近い栽培方法が採用されていることが想像できます。
「ナチュラルワイン」という言葉そのものに疑問を投げかける声もあります。イタリアの生産者ジャンフランコ・マンカは、「ワインはもともと葡萄だけで作られるナチュラルなものであり、『ナチュラル』という形容詞をつける必要はない」として、「自由なワイン(Vini Liberi)」と呼ぶべきだと主張しています。
また、ニューヨーク在住のワインジャーナリスト、アリス・ファイアリングは、自著に『Naked Wine』というタイトルをつけ、ニュースレター『THE FEIRING LINE』では「誠実な葡萄栽培と最小限の介入で作られたワイン専門のニュースレター」としてナチュラルワインの魅力を伝えています。
彼女の取材によれば、「ヴァン・ナチュール」という言葉は1980年代半ば、添加物を使用しない「ヴァン・サンスフル」から派生しました。その後、2005年にフランスのティエリー・ピュズラやマルセル・ラビエールらが「アソシアシオン・デ・ヴァン・ナチュレル(AVN)」を設立し、正式に使われるようになりました。
ナチュラルワインの生産者たちは、有機的な栽培環境を重視しますが、認証(例:ビオディナミ認証のデメーター)には必ずしもこだわりません。テロワールの個性を最大限に引き出すためには、ケミカルな要素を排除し、健全で強い葡萄を育てることが重要だと考えられているのです。